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カーボンニュートラルで各社がEV宣言をするのはなぜか?…フォーイン 取締役 企画調査部 田中八智代氏[インタビュー]

あらためてカーボンニュートラルとはなんなのか、自動車業界に与える影響を考えてみたい。

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カーボンニュートラルで各社がEV宣言をするのはなぜか?…フォーイン 取締役 企画調査部 田中八智代氏[インタビュー]
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2021年2月にはアメリカがパリ協定に復活し、カーボンニュートラルや脱炭素社会への動きは決定的となった。各国の政策や法規制にもなんらかの影響が出る可能性もある。潮目が変わったといってもいいだろう。あらためてカーボンニュートラルとはなんなのか、自動車業界に与える影響を考えてみたい。

業界への影響について、海外の環境規制を追っているフォーイン 取締役 企画調査部 田中八智代氏に話を聞いた。田中氏は4 月16日開催のオンラインセミナー「欧州と米国の環境規制とZEV競争」で、欧米の環境と自動車業界への影響の他、自動車メーカーのZEV戦略と競争について講演する。インタビューは講演に先だって行われた。

---:さっそくですが、ZEV戦略を調査することになったきっかけはなんだったのでしょうか。

フォーインでは、主に海外の調査事業を担当していました。その中で欧米の自動車業界や環境規制が専門でした。調べていくと、欧米では、2015年に締結されたパリ協定が自動車産業を締め付けている現実に突き当ります。その背景にあったのは、これまでのしくみや枠組みへの変革の動きです。また、ITイノベーションや第4次産業革命なども進み、ZEVトランスフォーメーション(変革)が起きています。

いまはDX、デジタルトランスフォーメーションという言葉が使われていますが、パリ協定を単なる環境問題として捉えるのではなく、トランスフォーメーションの視点で、業界の電動化、環境問題が整理できるのではないかと考えました。

ただ、この視点で調査を始めると、現在進行形で状況が常に変わってきていることも実感します。

---:欧州ではジャガーやボルボなどのブランドがEVシフトを宣言しています。この動きをどう捉えていますか。

この半年の動きが早いですね。ジャガーランドローバー、BMWのミニ、ボルボ、ベントレーも同様な動きを見せています。フォードもEU向けの乗用車についてはEVシフトを宣言しています。これらの動きのトリガーはイギリスの環境政策だと言えます。実は、今あがったどのブランドもイギリス市場の依存度が高いか、イギリス市場を重視しているOEMです。

さらに、2040年くらいのスパンでみるとGMが2035年、ダイムラーが2039年までにカーボンニュートラルを宣言しております。カーボンニュートラルは製造工程も、販売する製品も全て対象となるため、宣言した時期までに販売全量をゼロエミッションにするということになります。

これらのすべての動きの背後にあるのがパリ協定です。パリ協定では2030年と2050年の環境目標が設定されています。今年にCOP26をホストするイギリスは気候政策を世界でも先行して進めていく考えで、自動車についても厳しい要求をしております。イギリス政府は30年以降、ガソリン車、ディーゼル車の販売ができなくすると宣言しています。また、EUの自動車環境規制も、2030年までのCO2排出規制が策定済みでしたが、「欧州グリーンディール」政策により、目標が引き上げられることになりました。

---:先ほどの各社の動きはこれを受けたものということですね。

はい。欧州グリーンディール政策に基づき、昨年から今年にかけて各種の環境規制が改変されており、乗用車のCO2排出量規制は2021年夏までに改定案が提出される予定となっております。欧州のOEMは現状の製品計画では新しい環境基準を達成できないとして、計画の変更を余儀なくされています。これが、直近の各社の新計画発表やEVシフト宣言に現れたと見ていいでしょう。

2030年に向けての自動車への規制内容はまだ確定していませんが、かなり厳しい内容になるようです。規制適合のために、各社は多くのEVを売る必要があるのです。すでに、2020年のCAFE規制では、2019年までの実績では、ハイブリッド車を持つトヨタと小型車が多く燃費の良いPSA以外、ほとんどのOEMが達成できないと懸念されていました。

欧州では昨年秋ごろからEV販売台数が急激に増えています。政府も補助金や環境投資に力を入れているので、欧州では急速にEV市場が形成されてきました。その結果、多くのOEMが何とか2020年基準を達成できたようです。

---:アメリカのZEV規制はどうでしょうか。新大統領の元で変わるのでしょうか。

トランプ政権下では、アメリカはパリ協定から離脱し、CO2排出規制も緩める方向で動いていました。しかしバイデン氏は、大統領選挙の公約にも掲げ、就任とともにパリ協定復活を宣言しました。前政権は、カリフォルニアなど厳しい環境政策をとる法規を停止・無効化する動きがありましたが、米国においても州や都市の環境政策はパリ協定に沿う流れであり、ZEV化の流れは無視できない状況と言えます。

ただ、アメリカの環境政策や法案がどうなるか詳細がまだ見えてきません。夏ごろを目途に新政策が決まるはずですが、いずれにしてもカリフォルニア州のZEV規制は復活するでしょう。

---:アメリカもEV市場が立ち上がるのでしょうか。

米国のEV市場展望については、現時点では中国や欧州ほどの市場はありません。移動の距離や自動車の利用スタイル、インフラの問題があるからです。例外はカリフォルニア州です。全米のEV販売のおよそ半分を占めており、さらにそのうち80%がテスラ車です。EV市場はテスラが独占している状態です。

ですが、GMはEV製品開発に多額の投資を行っており、今年末からEVの量産規模をあげて新製品を発売する予定です。バイデン氏はインフラ整備も含めてEVへの投資政策の方針を明言しているので、車両やインフラへの補助金、優遇措置がでてくれば、この2、3年で状況が大きく変わる可能性があります。

バッテリー製造や充電サービスなど関連業界の投資、起業も活発になってきました。

---:各国がZEV規制の元、電動化を進める中、日本OEMはどんな立ち位置が考えられるでしょうか。

日本OEMは欧州市場より北米・中国市場の売上が高い傾向にあります。少なくとも、この市場におけるポジション維持は必要でしょう。アメリカでは、まだEVの販売シェアは微小な範囲かもしれませんが、動きは確実にきています。注意したいのは、IT系からの参入です。アップルの自動車市場への参入が言われていますが、アップルだけでなく、テスラに次ぐスタートアップが参入してきます。米国でのEV市場は、シェアモビリティサービスのEV市場が確実に形成されるのではないでしょうか。また、高級セグメントでは欧州系を中心にテスラ車に対抗するEV商品を投入してくるため、新製品効果により市場が拡大する期待があります。日本メーカーはそうした先の競争を見据えた商品開発が必要になります。

---:最後に、ZEV化が自動車産業に与える影響についてお考えを聞かせてください。

パリ協定に端を発した環境規制の究極のねらいはゼロエミッション、CO2排出ゼロです。そのためのZEV化は、ほぼEV化によって進められています。ドイツでは、EVへのシフトによる産業構造変化や雇用への影響が問題視されています。少ない部品点数のEVへのシフトにより部品メーカーが雇用を維持できなくなることや、移行期間の内燃エンジン部品への投資が困難になると指摘され、その対策の議論が活発です。今後政府の支援とセットで自動車産業の変化が進むでしょう。

EV、電動化は、単にエンジンとバッテリーという工業製品のシフトだけでなく、業界にソフトウェア改革を迫っていることも無視できません。自動車のソフトウェアファーストの動きは、電動化だけが理由ではないですが、EVや電動車も自動車のソフトウェア領域を拡大させていることは間違いありません。ソフトウェアやサービスで価値を生み出せる自動車を作る必要があります。

田中氏が登壇する4月16日開催オンラインセミナー「欧州と米国の環境規制とZEV競争」はこちら。
《中尾真二》

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