モビリティの進化が未来を変える

【トップインタビュー】カーボンニュートラルへの取り組みはチャンス…ヤマハ発動機 日高祥博社長

今回、レスポンスによる日高社長への独占インタビューが実現。ヤマハが描くカーボンニュートラル時代の二輪像とは、そしてその中で見せるヤマハらしさとは。

ビジネス 企業
ヤマハ発動機 日高祥博社長
  • ヤマハ発動機 日高祥博社長
  • ヤマハ発動機 日高祥博社長
  • ヤマハ発動機 日高祥博社長
  • ヤマハ発動機 日高祥博社長
  • ヤマハの電動バイクコンセプト『E01』(東京モーターショー2019)
  • ヤマハの電動アシスト自転車 PAS シオン-U
  • ヤマハの小型電動立ち乗りモビリティ「TRITOWN(トリタウン)」
  • ヤマハ発動機のハイパーEV向け電動モーターユニット(試作品)
ヤマハ発動機は2050年までにCO2排出量を実質ゼロにする『環境2050』を公表、その一環として2035年に二輪車販売の20%をBEV(フルバッテリー駆動車)とし、2050年には90%に引き上げる方針を示した。日高祥博社長(高は“はしごだか”)はカーボンニュートラルへの取り組みはヤマハにとってチャンスでもあるとする一方で、二輪車本来の楽しさも捨て切れないとの思いもにじませる。

今回、レスポンスによる日高社長への独占インタビューが実現。ヤマハが描くカーボンニュートラル時代の二輪像とは、そしてその中で見せるヤマハらしさとは。

◆カーボンニュートラルに向けた取り組みはリスクか、チャンスか

ヤマハ発動機 日高祥博社長
----:カーボンニュートラルに向けた取り組みは、二輪メーカーであるヤマハにとって経営上のリスクにならないのでしょうか。

日高社長(以下敬称略):カーボンニュートラル、CO2の排出量をなくすというチャレンジは実際にガソリンを炊いて内燃機関で動力が出ている商品を多数抱えるヤマハにとって、多分リスクという風に見られるのが通常だと思います。それはそれとしてリスクはある。

でも一方でチャンスだという部分もあります。それはモーターと電池、それにインバーターやコントローラーが、エンジンよりも相当小さくなる。なのでいろんなレイアウトも可能になるし、新しいモビリティが造れるなというのがあるからです。

言い換えればオートバイという固定観念の中でエンジンのパフォーマンスをどう上げるのかとか、フレームとかリアアームをちょっとずついじりながら、どうやって操作性を上げていくかとか、乗り味を変えるとかという非常に細かい微差の世界から、モーターやインバーター、コントローラー、それからバッテリーを組み合わせてモビリティを造るとなった時に、今の二輪を置き換えるというのはもちうろんですが、そうじゃなくても良いなという部分が出てくるということです。

ヤマハの小型電動立ち乗りモビリティ「TRITOWN(トリタウン)」
----:ヤマハならではの強みが発揮できるチャンスがあるということでしょうか。

日高:環境計画2050を公表した際にもお示ししていますが、当然、「四輪と二輪の間」みたいなものもあります。要はお客様の価値観が変わっていく中で、毎日ひとりで会社へ行くのにLサイズのミニバンに乗る必要があるのか、どれだけ道路を占有してどれだけガソリンを喰うのかという話で、もっとパーソナルだけど雨風が凌げて、道路の専有面積や駐車面積も小さくて普通に動ける、そういうものが二輪と四輪の間にあるのではないかと。四輪メーカーさんも、そうしたミニマムマイクロカーみたいな領域はやられているが、そうではないヤマハらしいソリューションを多分提供できるのではないかということで、この領域をいろいろやりたいと考えています。

またヤマハは電動アシスト自転車をやっていますが、それと原付バイクとの間、この領域もヤマハは新しい乗り物がいろいろと提案できる。人々の環境意識は年々高まると思います。とくに若い人ほどその意識が高い。今の若い世代が時間とともに社会の中心になっていくわけですから、いずれミニマムコミューターや、環境負荷の低い乗り物を選択するというような動きになっていく中で、ヤマハとしていろんなチャンスが出てくるのではないかと思っています。

----:環境計画2050に掲げる二輪車のBEV化ロードマップでは2035年に20%、2050年に90%まで引き上げる計画になっています。その実現に向けた経営戦略は?

日高:電動車両の開発に関わるところでは、新たに電動関連の技術者が必要になるので、中途、新卒含めて採用計画をやっていく。それから開発費の面でも、ヤマハは年間で1000億円前後の開発費を既存事業と新しい成長領域に投資してきましたが、それに150億円くらいを積んでいる。さらに今後の3年間は、さらに150億円から200億円くらいの研究開発費の増額が必要になると思っています。

◆趣味の世界で二輪のBEV化は可能か

ヤマハの電動バイクコンセプト『E01』(東京モーターショー2019)
----:バイク好きで知られる日高社長にとっての電動バイクの魅力とは。

日高:電動バイクはまず音が静かであること。これはもう好き好きですが、僕自身は自分と車両が一体となってコーナーをトレースしていくのが好きなタイプで、そういう意味では音が静かであることは嬉しい。あとは熱。たとえば夏のバイクはエンジンがかなりの温度になりますが、(電動なら)そこまでの熱もない。音もない、熱もない、これはすばらしいと思いますね。

オートバイの楽しみで僕が絶対に譲れないのは、軽量パワー。加速感とか、自分の身体と車両を一体にさせながらコーナーをトレースしていく時のヒラヒラ感。これは電動になっても、全くガソリン車と遜色ない。技術者の言葉を借りると、電気の方がきめ細かく制御できるので、場合によってはエンジンよりもっといろんな乗り味だとか制御ができるということなので、もしかしたらもっと面白いものができるのだろうなと思っています。

----:一方で、BEV(フルバッテリー駆動車)化ロードマップでは最終年度の2050年でも10%はBEV化が未達となっています。その理由は?

ヤマハ発動機 日高祥博社長
日高:今日時点のテクノロジー、今日時点の各国政府のスタンス、今日時点のお客様の価値判断、こういったものをベースに考えると、趣味の世界の250cc以上のスポーツバイクの世界と、日々の移動を満足するためのスクーター、原付1種、2種を中心としたスクーターの領域とでは全然違います。

原付1種、2種はいずれ全部BEVになると考えています。ヤマハとしてはだいたい年間500万台を世界で販売していますが、そのうちの9割以上がASEANを中心としたコミューター。これがすべてBEVに代わると思っています。

一方、趣味の二輪についてはお客様の用途から考えた時に、1回に乗る距離を満たすだけのエネルギー量をカバーできるバッテリーを果たして積めるのかということを考えると、どうも成立しないのではないか。ビッグバイクの世界についてはBEVは無理なんじゃないかなという気がしていて、その部分が2050年に10%残ってしまう。そのうちのいくばくかはカーボンニュートラル燃料の可能性もあるなとも思っています。

◆四輪と二輪の間、原付と電動アシスト自転車の間に勝機

ヤマハ発動機 日高祥博社長
----:2050年に二輪車の90%をBEV化するというヤマハの目標に対する反響は

日高:答えはひとつではない、カーボンニュートラル燃料もやっていく、というメッセージにすごい励まされたという多くの声が販売店さんから寄せられたと聞いています。やはり販売店さんにしてみると、エンジンってオイルも必要になるし、いろんな面でメンテナンスの付加価値も大きいので、エンジンの二輪車がなくなって全部電動になることに対する不安はお持ちだと、前々からわかっていました。内燃機関をあきらめない、場合によってはカーボンニュートラル燃料の可能性もあるということに対して、販売店さんからエンカレッジ(勇気づけ)されたというフィードバックは来ています。

一方で社内のエンジニアは分かれている。やはり電動にいくべきだという考えの人もいれば、内燃機関が好きで好きでという人もいるので、これは本当に意見が分かれている。それが部署ごと、ジェネレーションごとに、もっと言うと個人個人でそれぞれ考えがある。本当に内燃機関がなくなるなんてやってられないという人から、さっさと諦めてみんなで電動化をやるんだという環境意識の高い社員もいる。これはもうバラバラです。

----:環境計画2050では既存の二輪車のBEV化とともに、新領域モビリティの創出、普及も掲げています。将来的にヤマハのランドモビリティ事業に占める新領域モビリティの割合はどれくらいまで広がるとみていますか?

日高:売ってみないとわからないというのが正直なところです。ただ四輪と二輪の間を狙っている部分はヤマハらしい商品で戦いたいので、少なくともニッチな商品になるだろうなという感じはある。だから数が出るというよりは、やはりある楽しみといったものに共感して頂けるような人たちのモビリティということで、そんなに何十万台、何百万台とはならないような領域になると思います。

ヤマハの電動アシスト自転車 PAS シオン-U
一方で、電動アシスト自転車は日本でもう80万台市場になっていますが、原付は1種、2種合わせて15万くらいで、合わせると100万台くらい。以前は原付だけで100万台で、電動アシスト自転車が数万台だったものが逆転した状況になっている。そうすると原付と電動アシスト自転車の間のところというのは、その値段と利便性とのバランスの中で原付、電動アシスト自転車、それと新しいモビリティすべてで100万台プラスアルファの市場にはなるだろうと思っています。あとは我々の商品がお客様にとって価値が高いと思われれば、それが主流になるし、そこはもう勝負だと思います。

----:BEV化を進めていく中で、ホンダ、スズキ、カワサキとの協調と、競争の部分はどのようになっていくのでしょうか。

日高:BEVを中心としたEV化を考えると、バッテリーに関わる部分でどこまで協調すべきかというテーマがあります。それ以外の部分ではもともと日本自動車工業会でやっている普及だとか、安全啓蒙だとか、健全な産業に向けた協調領域というのは今までもやっていますから、プラスアルファで何かということになると、やはりバッテリー領域だろうと。

バッテリーを使って、長持ちさせて、そのバッテリーを回収して、資源をリサイクルして、というのをチェーンで考えたときに、これを個社でやるかという話になります。ただその中でも各社の強みがある部分、これまで培ってきた技術、調達など競争領域もありますから、「全部一緒にやりましょう」というわけにもいかない。一方でgogoroのように優れた技術を持ったベンチャー企業もありますので、そうしたバッテリーに合わせたBEVを作っていくという形もある。お客様にとって、二輪産業にとって何が良いのか、まわりのベンチャー企業などの動きも見ながら見極めていくことになると思います。

今、ホンダさん、スズキさん、カワサキさん、そしてヤマハで世界中の半分(のシェア)を押さえている。この強みを生かさないともったいない。エネルギークラウドの部分は全てベンチャーに取られましたというのもあまりにも芸がないですから、ホンダさん、スズキさん、カワサキさんには働きかけていきたいと思っています。

ヤマハ発動機 日高祥博社長

【トップインタビュー】「四輪と二輪の間、原付と電動アシスト自転車の間に勝機」ヤマハ発動機 日高祥博社長

《小松哲也》

特集