モビリティの進化が未来を変える

車両のオンライン販売が示す将来の車の買い方・楽しみ方

20日付け読売新聞によれば、ホンダのオンライン新車販売がこの秋から開始されるという。ホンダのオンライン販売については、4月1日にすでに「ホンダセールスオペレーションジャパン」設立のリリースとともに発表されているが、これが正式にサービスが始まるということだ。

ビジネス 企業
ポルシェのオンライン新車販売
  • ポルシェのオンライン新車販売
  • プジョーがフランスで導入した新しい「PEUGEOT DIRECT」システム
  • ホンダ・ヴェゼル新型
  • 米日産のディーラーからオンラインで新車を購入できるプログラム「Nissan@Home」
  • テスラ・モデルS改良新型
20日付け読売新聞によれば、ホンダのオンライン新車販売がこの秋から開始されるという。ホンダのオンライン販売については、4月1日にすでに「ホンダセールスオペレーションジャパン」設立のリリースとともに発表されているが、正式にこのサービスが始まるということだ。

◆着実に下がる車両オンライン販売のハードル

業界では、テスラのメーカーオンライン直販が草分け的存在だ。ボルボ・カーは2030年までに車両販売をすべてオンラインに切り替えるとしている。日産は『アリア』の予約注文をオンラインではじめている。日産は、コロナパンデミックによる2020年の新車販売の落ち込みをオンライン販売でカバーした実績から、北米では2021年にNissan@Home(オンライン試乗から納車まで対応)をスタートさせている。

以前の自動車業界なら、車をネットで“ポチる”ことなど想像もつかなかったかもしれない。コロナによる行動様式・消費形態の変化が引き金となり、新車のネット販売・オンライン販売が広がりつつある。まだニュースになるレベルで一般化はまだ先だが、CASE車両、モビリティ革命、脱炭素の動きは、むしろ「新車はネットで買う」がこれからの常識になる可能性を秘めている。

大げさに聞こえるかもしれないが、考えてみると驚くに値しない。中古車の個人売買でネットが使われるのはもはや日常の風景だ。テスラの新モデルは発表と同時にネット予約が入り、近年の『サイバートラック』や『モデルY』は、出荷時期未、発表だけの状態でネットの事前予約(申込金100米ドル)が数十万台規模に達する。新車購入のオンライン化は文字通りの時間の問題だ。

◆オンライン販売のメリットとデメリット

いまさら説明するまでもないと思うが、オンライン販売(と深くかかわるメーカー直販)のメリットは以下のとおりだ。

・無店舗のため直販価格が設定しやすい(安くなる)
・値引きなど不明瞭な価格設定がなく透明性が高い
・事前予約数を新車の生産計画に反映させられる

オンライン販売は過渡期でもあるので、メリットはすべてデメリットになりうる状態でもある。もっとも大きいのは、オンライン購入した車両の整備やサービスはどうなるのか、という店舗やリアルサービスに依存した部分への不安だ。小売をしないOEMメーカーがディーラー(販社)のようなサービスや対応をしてくれるのか。

テスラもディーラーを持っているが、ほとんどが直営で数も限られている。ディーラーに行って説明を受けても契約は店舗のPCや自分の端末で行ったりもする。テスラの場合は、実店舗ディーラー(店舗)が少ないため、納車や整備が出張サービスとなる。トレーラーが自宅前まで車を陸送してきたり、修理業者がガレージや出先で整備、修理を行ってくれことがある。これも、一部ユーザーにとっては体験型サービスとして人気だが、当然それをいやがるユーザーも存在する。

価格が安くなるというも、テスラ以外のメーカーの場合、その効果は期待しにくい。実際、ボルボのオンライン販売も、実質はディーラーの新車購入手続きをオンラインにするという考え方に近く、納車やサポートは既存ディーラーが担い、価格は据え置く方針だ。ホンダもサイト運営は別子会社となるが、納車やサービスはボルボ方式になると思われ、価格は大きく変わらないだろう。

2021年、上海工場からのモデルSの車両価格が下がったのは工場による生産コスト減と輸送が北米から中国に変わったためだ。下がるときはうれしいが、逆に、別工場を指定したり、輸送コストが変動したりしたら、値上げする可能性もあるということだ。

これらが受け入れられない層(現状多数派だろう)には、オンライン販売が最良の販売方式とはいうことはできない。しかし、それでも、この方式は新車販売ビジネスを変える可能性を持っている。なぜか。

◆業界事情はオンライン販売を後押し?

まず、そもそも既存モデルのディーラーもCASEやMaaSといった波に揉まれ、業界再編が叫ばれている。有りていにいえば、新車市場は年々減り続け、ディーラー収益は新車販売から車検・サービスにシフトしている。大トヨタさえ販社(ビジネスモデル)再編に動き始めており、ディーラー各社はシェアリング、用品、その他サービスに力を入れ、独立性を確保しなければならなくなっている。

割り切って考えれば、新車販売ビジネスのための投資、コストを捨てて身軽になれば付加価値サービスにシフトしやすい。もちろん、売上ベースでは経営規模は小さくなるかもしれないが、付加価値サービスは一般に利益率が高い。すべてを切り捨てなくても、オンライン販売会社に購入手続きなど代行してもらえるなら、検討の余地は大いにある。

CASE車両が増えることは、この傾向を後押しする。EVは一般に共通プラットフォームで作られる。整備の多くはソフトウェアの設定および改修、EUCなどのモジュール交換・調整の作業にシフトするはずだ。サスペンションなど機構部分は残るものの、パワートレインやコア部分の整備は各社共通となり、いわゆる整備の腕での差別化要因が減る。ゼロになることはないにしても、順当なビジネスを考えるなら、新車販売、整備点検、その他サービスの分業、分社が進んでもおかしくない。

規模のメリットで大型店舗(ディーラー)は残るかもしれないが、逆に中小ディーラーや新規参入にとっては、得意分野に注力しやすくなり、新しい市場にもなる。大手ディーラーから、セールス部門、整備部門などがMBOで独立するというシナリオも考えられる。

◆CASE車両はむしろアフターマーケット・新興市場を刺激する

共通プラットフォームで同じモーター・バッテリーだと車の面白みがなくなると思うかもしれない。モーターやバッテリー、ソフトウェアもまたエンジニアリングの賜物である。内燃機関より面白くないというのは合理的根拠はない。むしろインバーターやバッテリマネジメントシステムのチューニング、ソフトウェアのチューニング、さまざまなアプリ連携やクラウド連携など、楽しむ要素はいくらでもある。パソコンが同じプロセッサやOS(プラットフォーム)でも、マニアは改造PC、自作PC、ゲーミングスペシャル、AIスペシャルで楽しんでおり、そのための市場も存在する。これは、EVやコネクテッドカーでもアフターマーケットが成立する可能性を示唆している。

そして、そのようなユーザーはおそらく、車のことがわからないユーザーでも100%面倒をみてくれるディーラーやショップよりも、ハードウェアとしての車両を直接販売してくれるオンラインショップを重宝がるだろう。

ディーラーでの値引き交渉は、新車購入のひとつの醍醐味ではあるが、視点を変えれば不明瞭会計ともいえる。値引き幅は担当者やディーラー、販社ごとに決められているので、ようはそのマージンの奪い合いだ。誰かが大幅値引きを獲得したということは、誰かがその分値引き幅を削られているという考え方も成り立つ。そもそも下げられるなら最初からその値段にしておけという話でもある。

ただし、日本の場合、合理性や透明性を好まない傾向ががある。また、車両の取得、登録その他の手続きが諸外国に比べて煩雑だ。複雑な税金体型もオンライン販売どころか普通の新車購入のハードルにもなっている。法的な制限も多いので、ここまで自由な市場にはならないかもしれないが、本のオンライン販売から始まったアマゾンがいまではあらゆるものを扱っている。車だけはオンライン販売にならないと考えるほうがおかしいだろう。
《中尾真二》

特集