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【MaaS体験記】クルマ依存を解消するマイナンバーカード連携「MaeMaaS」…前橋市スーパーシティ構想に向けた取り組みとは

今回のMaaS体験は、群馬県前橋市が取り組むスマートシティの一環としてICTを活用した「MaeMaaS(前橋MaaS)」の取り組みだ。

ビジネス MaaSサービス
大胡駅で自転車といっしょに降りる人
  • 大胡駅で自転車といっしょに降りる人
  • 中央前橋駅前にあるシェアサイクル「あかぎcogbe」のポート
  • シェアサイクル「cogbe」の横断幕が掲げられた前橋駅前ロータリー
  • 上毛電気鉄道の中央前橋駅
  • デマンドバス「城南あおぞら号」を呼び出すMaeMaaSの画面
  • 「中心市街地乗り放題券」のMeMaaSの画面
  • デマンドバス「城南あおぞら号」が大胡駅の踏切を通る。
  • 前橋市の人口推移を説明する前橋市の山本 龍市長

今回のMaaS体験は、群馬県前橋市が取り組むスマートシティの一環としてICTを活用した「MaeMaaS(前橋MaaS)」の取り組みだ。マイナンバーカードと交通系ICカードの連携をはじめ、郊外地区でのデマンドバスと市街地での乗り放題フリーパス、シェアサイクルの拡大など先進的な取り組みを進める前橋市で実体験。前橋市の山本 龍市長にも話を聞いた。

前橋市「MaeMaaS」とは

前橋市が取り組む『MaeMaaS』は、2019年以降に経産省と国交省が取り組む「スマートモビリティチャレンジ」事業でも採択され、「パイロット地域」「先行モデル事業」として全国でも早くから注目される事業だ。前橋市は、過度に自家用車に依存した車社会であり、高齢者が安心して免許返納をすることができないなどの課題がある。また、交通事業者が複数存在し市街地では重複して運行している実態もあり、交通課題の解消とMaaSの環境構築に取り組んでいる。

令和2年度にはJR東日本の「ググっとぐんMaaS」と連携し、令和3年度ではマイナンバーカードと交通系ICカードを連携し、郊外3地域でのデマンドバスと中心市街地での乗り放題デジタルフリーパス(3種類)を提供している。12月からは飲食店でのクーポンなども提供開始している。

鉄道、デマンドバス、路線バス乗り放題の体験

上毛電気鉄道で中央前橋駅から大胡駅までは往復900円かかる。今回「MaeMaaS」のウェブアプリで事前に「上毛電気鉄道赤城南麓一日フリー切符」をSuicaで購入したが、前橋市民はマイナンバーカードで認証登録すると800円で1日乗り放題になる。いわゆるサイクルトレインで、乗車している人のなかには自転車を積み込んでいる人もいた。

大胡駅でデマンドバス「城南あおぞら号」を呼び出すが、到着まで10分程度待つことになったため近くの倉庫を見学。駅員と話すと「MaeMaaS」の画面を見るのは数回目だったようだ。しばらくすると、デマンドバスが到着。運転手からは、高齢者の一人暮らしや若い人の利用が多いとお聞きした。また、マイナンバーカードを提示すると100円割引になるため、現金での支払いが一番多いと言う。スマホを使う方もいるが、「孫に設定してもらった」という方もいるそうだ。

上毛電気鉄道の大胡駅からJR両毛線の駒形駅までデマンド交通で向かう。鉄道だと1時間程度かかかる鉄道路線間をデマンド交通だと15分程度で着く。このエリアの利用者は、自宅からスーパーに買い物に行く場合や美容室、個人病院に行く人が多いと運転手は話す。とくに駒形駅からの利用が一番多く、大学生の利用者もいるらしい。

駒形駅から前橋駅に戻り、市街地のバス乗り放題を試す。あらかじめ「MaeMaaS」ウェブアプリから「中心市街地乗り放題券」をSuica購入し、前橋駅からマイバス(循環バス)に乗る。ショッピングモール「けやきウォーク前橋」に向かい、そこから前橋市役所まで戻るルートで利用したが、「MaeMaaS」ウェブアプリからルート検索できるため、循環方向とエリアさえ間違わなければ使い倒すことができる。

ただ、路線バスの数も多いため、前橋駅から自分の行き先がわかっていても、どの路線バスに乗ればいいか、乗り場はもちろん戸惑うことが多かった。とくに路線全体を確認しようとしても、スマホの画面で一枚画像を確認する必要があり、地図との違いや色の違いなどを見つけるのは難しかった。

シェアサイクル「cogbe」の取り組み

前橋駅のロータリー入口には、バスのりばと合わせてシェアサイクル「cogbe(コグベ)」の横断幕が掲げられている。「MaeMaaS」ウェブアプリでルート検索すると、近距離の場合には「cogbe」のリンクが表示されるようになっており、ポートの場所や貸出可能台数などがわかるのですぐに使える。利用には別途「ecobike」アプリのインストールと登録が必要だ。

前橋市内にはレンタサイクルやシェアサイクルが複数事業者あったが、2019年に太陽誘電とブリヂストンサイクルから回生電動アシスト自転車128台の提供を受け、ICTまちづくり共通プラットフォーム推進機構等の参画よる検討会を経て、2021年4月からひとつに統合。「まえばしシェアサイクルcogbe」としてサービスの提供を開始している。

また、市街地でのシェアサイクルに加えて、赤城山周辺の観光を目的に「あかぎcogbe」を2021年10月23日より開始している。自転車も「cogbe」のものとは異なりブリヂストンサイクルのe-クロスバイク「TB1e」を導入。もともと赤城山周辺はサイクリングコースもあり「赤城山1周ライド」などのイベントも開催しているため、上毛電気鉄道がサイクルトレインだったことも合わせて、自由に選べて自分のペースで観光できるスローツーリズムの街づくりも推進している。

シームレスにつなぐ前橋モデル

デマンド交通の対象3地域は、町村合併をした経緯があり、それまでアナログでデマンド交通を運行していたが配車効率が悪かったため、2018年にNTTドコモのAI配車システム「AI運行バス」を採用している。そこからエリア内外をシームレスに連結するように未来シェアの「SAVS」にシステム統合し、JR東日本のプラットフォーム(モビリティ・リンケージ・プラットフォーム)とも連携した、と前橋市政策部交通政策課の細谷精一課長は話す。未来シェアとは、平成30年ごろに前橋市「マイタク(乗合タクシー」の視察に来られた際に意見交換をし、経産省のスマートモビリティチャレンジの立ち上げもいっしょに研究を進めてきた背景がある。

他府県でもオンデマンド交通はあるが、交通ネットワークがつながっておらずエリア限定で孤立してしまっている場合がある。前橋市でもこれまでは路線バスはあったがスクールバス状態になっていたこともあり配車効率が悪かった。そうした郊外部と中心部をシームレスに連携するような交通計画を立て、中心部市街地の路線バスの本数を増やし郊外部をデマンド交通に一本化するなど実施してきた。

前橋市のパーソントリップ調査では、100m以内の移動にも自家用車を使う人が多いのが実態だ。「今回のデマンド交通を導入したことでおよそ300mごとに乗降ポイントを設置している」と前橋市の山本 龍市長は話す。「この間最大150mは歩かなければいけないことになるが、自宅からの配車サービスなども含め今後検討していく」と言う。

また、決済などは交通系ICカードのSuicaと連携している。これまでデマンド相乗りタクシー「マイタク」事業ではクーポン券(紙券)を配布していた経緯もあるが、MarMaaSの環境構築にともない2022年4月までで紙券をやめる。マイナンバーカードでの資格認証に切り替える予定だ。

今回の最大の特長は、交通系ICカードとマイナンバーカードを紐付けることにより、前橋市民限定の割引サービスが受けられることだ。これまでの紙券をやめマイナンバーカードを活用した運用に移行することで、交通事業者や市の負担を軽減し、多種多様な交通手段を市民に提供する新たな交通ネットワークを構築することを目指している。前橋市は、マイナンバーカード1枚でできることを増やす「前橋モデル」を提唱している。

前橋市のスーパーシティ構想に向けて

前橋市は、2021年10月に国のスーパーシティ型国家戦略特別区域に関する専門調査会に対してスーパーシティ構想を再提案している。「スーパーシティを通じて、様々な時間的・地理的・財政的・慣習的な制約から市民を解放し、誰一人取り残すことなく主体的に自らの可能性をめぶかせるためのゆとりを与えるプラットフォームを構築する」とある。この「まえばしデジタル自治圏」の交通プラットフォームを担うのが「MaeMaaS」であり、マイナンバーカードとの連携を見据えた基盤として「まえばしID」がある。今回の取り組みはまさに、ICTを活用した前橋市のスーパーシティ構想の一端として見ることができる。

今回改めてこれまでの取り組みや経緯を聞いたことで、さまざまな交通課題に対して大きな選択をしてきたことがわかり、その都度有力なパートナーシップを築けているようにも見えた。たとえば、デマンド交通では未来シェアのシステム統合や交通系ICカードではJR東日本とのプラットフォーム連携、シェアサイクルでは太陽誘電とブリヂストンからの車両の寄付など、前橋市でなければできなかった取り組みも含まれるはずだ。

一方で、高齢化が進む車依存の市民に対しては、より安心して移動手段を選択できる機会を提供して、中心部から郊外までのシームレスな移動や、赤城山を基点にした観光促進まで推進している。利用方法においてはデジタルだけではなく、早くからマイナンバーカードを活用する取り組みを実証しており、他府県でも同様の課題があればすぐにでも参考にしたい事例がたくさんある。

もちろん交通分野だけではなく、学育分野やヘルスケア分野など、これからの社会基盤を見直す試みとして前橋市のスーパーシティの取り組みは今後も注目できる。

■MaaS 3つ星評価
エリアの大きさ ★★☆
実証実験の浸透 ★★☆
利用者の評価 ★★☆
事業者の関わり ★★★
将来性 ★★★

坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室 室長
グラフィックデザイナー出身。2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。

《坂本貴史》

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